2015年03月

優等生のジレンマ

このゲーム、完成度は高いけど、うーん。てなる現象を「優等生のジレンマ」と勝手に命名したい。
正確には穴のない完璧なゲームを目指すほど、突出とした部分やウリのゲーム体験が薄くなり、印象は凡庸になってしまう現象。

この間食べたケーキも完成度は高いけど、甘さが均質すぎて単調だったのを思い出す。

水はひび割れを見つける
翻訳記事:「水はひび割れを見つける

Civilization IVのリードデザイナーSoren Johnson氏は言うように、ゲームデザイン上の穴があれば、プレイヤーはその手を使わずにプレイできなくなってしまう。
ビニール袋に水を詰めて底に穴を開ければ、そこに水が集中して出ていくように。

他のプレイスタイルの多様性を破壊し、退屈な作業を強いたりする。
マリオの無限1UPみたいな面白い穴もあって、すべての穴をゲームから取り除くのはやりすぎだ。というのが氏の意見である。

私の実体験では…
Diablo3のボスGhom は一時期のアップデートで設定ミスかと思うほど異様に硬く、異常な毒ダメージを与えてくるガス攻撃で最強のボスとなり、数多くのプレイヤーの心を折ってきた。
回復技の多い職のモンクでさえ10秒立っていられるかぐらいには恐ろしいものだった。
当時私はバーバリアン職で、当時一緒に遊んでいたnekさんとともに何度も挑戦した。
バーバリアンにはまさにゲームデザインの穴といえる超回復できるビルドがあってこれで挑んだ。
かといって無敵ではなく、ミスをすれば普通に死んでしまうので緊張感はあった。
20分の死闘の末、ついに打ち勝った。この感動は今でも忘れないし、このゲームの体験では頂点であった。
それからGhomもバーバリアンも弱体化されたが、次第に興味は薄れてしまった。


ハクスラなりオンラインなりのゲームで異常に強い武器があって、みんなそればっかり使ってしまうような状況の時に、バランス調整でその武器を弱体化(ナーフ=nerf)するのがてっとり早い。
しかし、これの愛用者、皆が使い出す前から見出したり、この武器を使ってバタバタと敵を蹴散らす快感を覚えてしまったら、この措置には不満が残るだろう。

「他の武器を強くすればいい。敵を強くすればいい」と愛用者は言うだろう。
相対的に価値(=強さ)を落とせば、感情的な反発なしにこの多様性のない状況を打破できる。ナーフ措置はしないと宣言するゲームもある。だが、ゲームが複雑なほど修正コストがかかる。
修正の過程でゲームのサイクルや成長カーブを破壊しかねない。
そこはゲームデザイナーの腕の見せ所ではあるのだが、そもそも、均質化して面白いのだろうか。
結果としてすべての武器が均質な性能になった場合、穴は埋まるが埋めすぎてゲームとして底が浅くはならないだろうか。

完全にゲームの多様性を崩壊させる要因になってるならナーフを恐れてはいけない。
ただし全く使い物にならなくはしない範囲に収め、つい別の武器を試したくなる、ユニークで差異のある要素も同時に投入したほうがいい。

ただし、差異を出すためにある条件下で性能を発揮する武器というふうに作ってもそれが露骨な場合は大して面白くはならない。
たとえば、毒にめっぽう弱いボスがいて、毒が強い武器があるとする。ただ敵の弱点属性だからその武器を使うということだけでは愛着は持てないし、何より面白くはない。
ユニークでぶっ飛んだ武器、渋く落ち着いた武器、使い物にならない武器、色々あったほうが面白いのだ。

エポックメイクのフォロワー
ジャンルを作るエポックメイキングな作品、たとえばハクスラのDiablo、トレーディングカードゲームのMagic:The Gathering、さかのぼればインベーダーゲームですら、そのあとに多くの似た作品が世に溢れた。
こういうゲームは必ずしも完全に完璧なゲームでもなく、むしろ初期は粗が多い。
しかしその粗を埋めただけで元を超える傑作となりえるだろうか。
エポックがエポックたるのは体験の新鮮さ、新しいことへのワクワク感だ。

隙きのない優等生的なデザインにするのはそのワクワク感を削ぎ丸くなってしまう。
しかし、ただのそのままではコピーになってしまうので、適切なデザインを検討すれば穴の問題は埋めざるえない。何か別の要素を足して相乗効果になればいいが、打ち消してしまうことのが多いだろう。

より高い完成度を求めると凡庸になる。「優等生のジレンマ」

こうした優等生的なフォロワー作品や続編、むしろ個人的には好きなこともある。たとえばArkane Studioは続編を担う事が多いがいずれも面白い。存在してもいいし、ジャンルの発展としてもこういった質の高いゲームは欠かせないだろう。

私も自身でゲームの改良(modding)をするのでどちらかと言うと優等生的なゲーム設計をしてしまいがちだ。質が高くて信頼できると評されるととても嬉しく思う一方、自分でもどうもコントラストに乏しいものを作りがちに思える時がある。

どうすべきか
優れたゲームのゲームデザインの知見はやはり参考になる。

[GDC 2016]「Magic: The Gathering」を20年間デザインしてきたMark Rosewater氏が,自身の経験から得た“20の教訓”を語る

Magic: The Gatheringは新しい拡張セットが出る度に毎回エキサイティング体験ができる驚異的なゲームだ。
いかに凡庸でマンネリさせないかの重要な知見がたくさん詰まっている。
以下本稿に関わりそうなものをピックアップ。

1:人間の本性に反するゲームデザインをすれば,敗北が待つのみ
→常識的な判断に沿わないゲームデザインはなじまない。プレイヤーに寄り添うべき。3:共振を利用する、4:巨人の肩に乗るも似た話。
5:「興味深い」と「楽しい」を混同しない
→理論上では知的でバランス取れてるものが、プレイヤーが「楽しい」と思うとも限らない。
6:そのゲームを通じて,プレイヤーの間にかき立てようとする感情が何であるかを意識する
→すばらしいシステムであっても「楽しい」と思える要素でなければカットすべき。
9:プレイヤーに所有感を与えよ
自分たちのフォーマットを作る、デッキを作る、プレイヤーの能動的な行為を与える。
その7:ゲームを「プレイヤー自身のもの」とせよも同じ。
10:プレイヤーに探索の余地を与えよ
プレイヤー自身が発見したことが愛着を生む。上に近い。
11:「好き」をどんなに集めてもゲームは失敗する。「愛」を集めよ
全員の評価が7より、1と10で分かれる賛否両論のカードのほうが良い。否定的な反応を恐れず、どうしたら強い感情を生むかを考える。
13:ゲームを楽しむことによって,戦略的にも優位に立てるようにデザインせよ
ゲームの楽しさをデザインし、なおかつ楽しいことで優位になるようにすべき。
14:ストレートすぎる表現を恐れるな
「ときに露骨に表現したほうがいい」繊細さよりわかりやすさが効く場面もある。
15:ターゲットを絞り,そのためのコンテンツを作れ
すべての人を満足させようとして、結果的に誰にとっても不満なものができてしまう。
ターゲットを絞って、ターゲットが望む仕上がりにすれば全体的にゲーム体験が向上する。
16:プレイヤーに挑戦することを恐れるな。退屈させることこそ恐れよ。
新しいことに挑戦するとき反発されるが、退屈になりそうな要素は反発されない。プレイヤーはまるきり逆で挑戦は歓迎され、退屈は好まない。
17:巨大な変革のために,すべてを変える必要はない
足し算を続けるとゲームが破綻してしまう。「どれくらい何も足さずに済むのか」を考えるべき。
18:制限があることで,クリエイティビティが生まれる
選択肢が多いほど無難な選択をしがち。似たものが作られる失敗に陥る。
19:ファンは問題を探り当てる達人だが,解決法はロクなものを提供してくれない
彼らの意見に耳を傾けるべきだが、解決策まで委ねるべきではない。

こうやってざっと見ると、かなりの部分が愛着持てるとか楽しいとか「感情」にフォーカスしている。
分析的、統計的、理論的に好ましいデータやデザインがプレイヤーの「感情」になじむとは限らない。
脳は感情と理性の部分を同時に扱えないのだ。
なにより優等生的デザインはプレイヤーにコントロールされている印象を与えてしまう。


こちらの資料も同じく参考になる。
CEDEC2016 「コントラスト」で考えるゲームデザイン・レベルデザイン

こまかい差異は認知できないので、しっかりメリハリをつけることで面白いものにする。
実際の具体例もついて分かりやすい。感情のデザインについても言及してある。

まとめ
  • 必ずしも平準化しても面白くはならない。
  • 穴埋めばかりしても面白くはならない。
  • もっと感情やメリハリにフォーカスすべき。




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欠乏



いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 (早川書房)はライフハック本ぽいけども、原題はSCARCITY=欠乏。
読んで面白かったので内容のメモ


お金が足りない人と時間が足りない人がいて、置かれる環境、個人の資質、性格、心持ち全然違うのに、最終的に足りないものに追われてますます足りなくなる結果については同じような状況に陥ってる。この状況は欠乏のマインドセットにとらわれているのが原因ではないかと問いをたてる。
そしてその欠乏を行動経済学と心理学の知見から明らかにする。個人のハックより貧困問題解決にわりとページが割かれてる真面目な本。



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